pleasure











〜14〜








白けた世界からだんだんと色がついていく・・夜の風のにおいが鼻に心地よくついて来る感覚さえ覚
える・・。

「ここは・・・」

「300年前の枢木神社の近く・・だ」

ルルーシュの言葉にゼロが割って入るように口に出す。
枢木神社の近く・・・300年前でも似ているはずだ。
ルルーシュが見覚えのあるように感じたのは当然だったらしい・・でもどうやってここに??

「この映像は実在しているわけではない・・今お前が見ているのは私の記憶の中・・意識体の一部だ・・」

そういうゼロの姿は見えないものの声は聞こえる。
ゼロの記憶の中ならゼロがいないのも分る…そしてこの風の匂いもゼロが昔感じたことのある感覚なのだろう・・。

「さぁ・・少し・・進めるぞ・・」

脳内に叩き込まれるように押しは入ってくる情報・・怪我をした自分(ゼロ)、力を欲した朱雀、契約をする・・・。

叩き込まれる様に入ってきたイメージが終わると全力疾走でもしたようなほどに酸素が足りなく荒れた呼吸になる。

「はぁ・・はぁ・・今のは・・」

息を切らし、立っている事が出来ず膝を床についてしまうルルーシュ

「今のが私と朱雀の出会い・・とでも言っておこうか?それよりもお前は大丈夫か・・・前世の記憶を体が拒否している・・耐えられなければやめるが・・・」

ゼロはルルーシュの身体を心配そうに言う。その言葉を聞きルルーシュは「大丈夫だ・・ただもう少しゆっくりに出来るか?」といい続きを見せてもらう事にした。

「じゃぁ少しずつ見せてやろう・・」

そういうとまた場面が変わる。

―怪我をしているゼロの体は朱雀の生気により段々と回復していた。
はじめは朱雀の神力に近い力があり触れることも叶わなかったが悪魔との「契約」にその力が消えた・・・。その状態をゼロは「いいのか?」と聞くと朱雀は

「この力があっても何も救えない・・神は万能ではない・・何も・・叶えてはくれない・・」

思いつめた表情をしている朱雀にゼロは少し驚いた。神を奉るこの青年が神を信仰していない・・。神力まで持っていてそれを捨ててまで悪魔に頼るというのか・・まったく・・この青年が分らなかったが自分を救ってくれた事には変わりない・・それに「契約」をしていればこいつの魂で後数百年は生きられる・・。そう悪魔らしい考えをこの時までは持っていた。―


「朱雀は・・朱雀は何で・・」

ルルーシュも疑問に思う・・なぜ朱雀はそこまで悪魔に・・・?そう思って思わず口から出る言葉にゼロが「フッ」と軽い笑い混じりに話し出す。

「焦る事はない・・もう少し黙ってみていろ・・」

ゼロは静かな声で言う・・・でもその声に何か感情が篭っている気がした・・そう、まるで寂しさのような・・・。


―ゼロの体調がよくなると昼夜構わず2人で話しをしていた。時折朱雀が何か縋るように体を繋ぐ事もあった…拒否はしなかった。別にする理由もないし、同時に力が手に入る。手っ取り早く体力の回復が出来るから…でもその時の朱雀は・・壊れそうなくらい脆く感じたんだ・・。

何回目か分らない交わりの後、気になり聞いた事がある。どうしたのかと・・。

そうすると朱雀は「一人は寂しい」といった・・朱雀は幼少の時に母を病で亡くしたらしい、そしてつい最近には父も同じ病で亡くなったと・・今はこの地の長として若いながらやっていると・・でも反乱分子や大きな村、町からの制圧・・国からの多い税・・日に日に酷くなる情勢・・。
孤独は加速する・・幼いころからのそれは朱雀には辛かった。神童と崇められるが周りの子供は気味悪がり大人たちも距離をとる。
そんな中育った朱雀はとても愛に飢えていた・・。ゼロを見たとき確かに異境の物と分った自分の力がそれを教えてその場に導いたとも・・でもその姿を見たときにはもうゼロに・・・ゼロを欲していた。
神に欺く力を手に入れれば今までの自分が変わると思った。
そしてこの悪魔を手に入れることが出来るとも・・・。

そんな話を聞かされたゼロは少し戸惑った・・戸惑いはあった・・でも何故だろう・・嫌な気持ちは微塵も感じなかったんだ・・。
寂しそうに話す朱雀を・・人を・・愛おしいなんて初めて思った・・。―

「私は朱雀を・・朱雀に恋をしたんだろうな・・それが・・こんなことになってしまうなんて思っても見なかった」

悲痛な声を聞きルルーシュも胸を締め付けられる・・自分と同じ思いをしているゼロ・・いや、俺がゼロと同じ思いをしているのか・・・。
そんな繰り返されるような思いがあるなんて・・思っても見なかった・・・。

「この後・・何が・・」

続きが気になって仕方がなかった・・。どうして自分・・ゼロはこんなにもつらそうなのか・・この続きに何があったのか、でも先ほどから頭が痛い・・体が前世の記憶を拒否していると言っていたが・・ますます酷くなる動機と痛み・・それに耐えてでも自分は<ゼロ>を知らなければ・・・。

―朱雀の元に一人の少女が訪れた。
その子は朱雀の父・・少し前に他界した父の遠縁に当たる娘らしい・・その親戚らしき男はその少女の病気を朱雀に見て欲しいとやってきたのだ。

朱雀は神童・・都合のいいときだけその名を頼りに訪れる人々。昔からそうだった。はやり病を治してくれ・・熱が下がらない子を助けてくれ・・雨が降らない・・食物が育たない・・朱雀にどうしようもない事ばかり・・難ばかりいってどうにも出来ない事を何とかさせようとしてくる・・どうにもならなかった時はインチキだ。詐欺だといらぬ因縁をつけられる・・・。
たまたま治った人物からまたその噂が流される・・終わらない。終わらない悪夢が朱雀を襲っていた。

少女とその親なのかは分らないが追い返してもいい事はない・・来てしまったならどうにもならないので一様家内に上げる。

そして病気の症状、医者に見せても分らない、どうにも出来ない病だといわれた事を聞く。
その話をゼロも物陰から聞いていた。
自分勝手な人間に本当にあきあきする・・そんな風に思っていた。

夜も更けてきたのでその客人達は親族なので宿を探す事は進めず枢木神社に泊まって行くよう朱雀は勧めたらしい。

月は半月・・少し気持ちが高ぶるそんな夜
ゼロは母屋の縁側に座り月を眺めていた。すると・・

―ガサッ―

「誰だっ!」

少し離れた所に人の気配を感じ声を張る。

「・・す、すみません・・」

そう。か細い声を出す少女は先ほど現れた「病もち」の少女・・。

「なんだ・・お前か・・ここは冷えるぞ・・早く戻れ」

少なからず心配をする自分にも驚いたがその少女は自分に驚く事もせずに帰ることもなく近寄ってきたのだ。

「わ、私神楽耶って言います!・・あの・・朱雀のお友達ですか?」

少し驚いた顔をゼロはしていたと思う・・。翼も隠すことなく居る姿を見て怖気る事なく話しかけてくる少女に弱さなんてなく・・「病」なんて嘘なんではないかとおもう。

「いえ・・あの、病は嘘ではないのです・・」

「!?」

口に出していない疑問に少女が答える

「驚かせてすみません・・でも私にはあなたの考えていることが分ります・・私にも朱雀・・いえ・・もう朱雀にはこの力はないのでしょうけれども同じような力があります・・だから・・無理を言ってここまで連れてきてもらいました・・・。」

「・・少し・・話そうか・・」

ゼロは神楽耶に静かにそういい自分の隣に座らせた・・・。
神楽耶はゼロの隣に座ると朱雀の事、自分の事、これからの事を話し始めた。
彼女はこれからの事・・つまり未来が見えるらしい・・でも誰の事でもはっきり見えるわけではないと・・そして、それは血筋なのか何なのかは分らないが朱雀の事が昔からはっきりと見えるらしい。
その朱雀の未来・・
朱雀はこのままでは反乱分子によって暗殺にも似たように命を落とすと聞かされた・・。
若い長・・近郊の村、町と隔たれたこの場で戦など起こさない様に間を取り苦しい思いをするこの村・・その反発が原因らしい・・。
その話を聞いてとめなくてはと・・・でも朱雀は何を望んでいるのだろう・・?

(あぁ・・そうか・・自分がここに来たのも意味があったんだろう・・。)

神楽耶はゼロに言った「あなたの事は今ここに来るまで判りませんでした・・それに、あなたの未来は何も私には見えないのです・・何も見えないのは初めてで・・・」

少し困惑したように言う神楽耶に優しく微笑みながら「心配ない・・」

とだけいってその夜は話を終わらせた。

「(心配ない・・私は朱雀を助けられる・・それを教えてくれたあなたの事も・・・神楽耶・・。)
神楽耶の帰っていく後姿を見ながらゼロは月を見上げた・・・。
半月が悲しげに光っていると感じたのは・・初めてのことだった。








100216   修正。