pleasure
〜20〜
劇の途中だったがその場ににいる事が出来ないで外に出た。
校庭に作られた出店の中をゆっくりと歩く…騒がしいその場所を歩いているはずなのにルルーシュの耳には何の音も入らなかった。
(どうして…なんで…)
こんな言葉だけがルルーシュの頭の中をぐるぐると回る。
少し前からの違和感はこういう事だったのだろうか…自分に言いづらい事があるから…留学には多分自分を連れて行く気がないから…だから、そこでこの関係は終わり…?
そもそも自分達は本当に思い合えていたのだろうか…昔からそうだ、はっきりとした言葉は聞いた事がない。スザクも自分もはっきりとお互いの気持ちなんて話した事があっただろうか…考え始めると止まらなくなっていく…。
不安…焦り…不信感…
この身体が…今の自分が…段々と何も信じられなくなっていく…
300年ずっと閉じ込められていた自分の半身…自分が生まれてきて18年…この間にあった事は本当に自分の事なのか…そもそもスザクは…本当に300年前自分が…ゼロが好きになった朱雀なのか…半身を取り戻した事で一杯一杯になっていてそんなことも確認していない…いや、違う。
確認するのが恐いんだ…
少し前…自分がスザクの舞いで初めてゼロに覚醒した時にスザクは言った。
「忘れていた」 「俺は朱雀であってスザクでもある」 「ゼロにあって完全な自分になった」
…別に忘れていた訳でも気にならなかった訳でもない。ただ今それを確認するのが無性に恐かったんだ…。
知らないうちに唇を噛締めていたらしい…口の中に鉄の味が広がる…
もしかしたらスザクは昔の事なんてどうでも良くて…今、生まれ変わった自分の人生を楽しみたいんじゃないかと…そして俺はその邪魔をしているのではないかと…。
今まで考えないようにしていた思いは溢れ出る様に止まらなくなりルルーシュの足は無意識の中自分の教室まで来ていた。
文化祭の最中の教室は机と椅子…その上にある生徒の私物。
教室の中は静まり返って音がしない、外から楽しげな生徒の声が聞こえてくる…。
いつもの教室は人がいないだけでこんなにも違う空間になるのか…
自分の中の虚しい気持ちとシンクロするかのような教室の静けさに更に寂しさのようなものが加速する。
ガララッ
教室の扉が勢い良く開いたと思ったら劇の衣装のままのスザクが息を切らしながら自分を見つめてくる。
「はぁはぁ…まったく何処いったのかと、思った…はぁ…」
額に汗を浮かべながらはにかんだ様に笑うスザクに胸がツキンと痛む。
「…すまない…」
小さく呟いた言葉に疑問を持ったのか首を傾げ眉間に皺を寄せながら「何かあった?」とスザクが訪ねて来る。
「俺は…別に…」
そうだ。自分には何も変わった事等ない変わる事も…ただスザクがどこかへいってしまうだけ。
自分の知らないどこかへ…次にいつあえるのかわからない遠くに…?
自分の中の疑念から一つの答えが生まれた。
スザクが自分をどう思おうと今のスザクが誰であろうと自分は単にスザクと離れる事がイヤなのだ。自分の全てでスザクとの別れを拒絶している…。
だって…こんなにも悲しみを感じている…
途切れてしまった言葉の最後から顔を上げられない…きっと酷い顔をしている、涙はかろうじで出ていないもののいつ溢れてしまうのかわからない位に…
感情の表し方なんて今まで誰も教えてくれなかった…こういう時どうしたらスザクにこの気持ちを伝えられるのだろう…。
黙ってしまったルルーシュにゆっくりとスザクが近づいてくる。
俯いているルルーシュの頭にぽんと軽く手を乗せて「どうしたの?」と優しく問いかけるスザク。
今そんなに優しく触れないで欲しい…手のひらから伝わるスザクの体温にルルーシュの瞳から雫が零れ落ちる。
一度落ちてしまった雫は後から後から耐えることなく床に落ち続ける。
スザクがその雫に気付いたのかそっとルルーシュの細い身体を抱く
「話してくれないと何もわからないよ…」
優しいといえば優しい声…だけど少しあきれたように言うその言葉に俺は感情の糸が切れた。
「お…れはっ!!」
振り絞るようにして出した声はだんだんと荒げられて怒号の様に口を割って出てくる。
「お前が何を考えているのかがまったくわからないっ!」
顔を見せるのがイヤだった…顔を見るのがイヤだった。
だからスザクの肩に思いっきり顔を埋めながら怒鳴った。
目から溢れる涙はスザクの肩を濡らしていく…借り物の衣装がスザクの匂いを吸ってスザクの匂いだけしていた…それはいつもならほっとして、暖かくて…でも今はとても心が痛くなる匂いだった…。
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ルルーシュが初めて感情を爆発させたその瞬間に黒い翼がばさっと一瞬現れた…
一瞬の事と荒ぶっている感情でルルーシュ自信は気がついていないみたいだ。
もうこんなにも時が経ってしまっていたのか…泣いているルルーシュの後ろ髪を撫でながらスザクは眉を寄せ悲痛な表情を浮かべた…
(ねぇ…ルルーシュ、今度は君が僕を求めてくれる…?)
10.04.21初出 もう少しでクライマックス…なはず。